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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『少年H』

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妹尾河童の名を知ったのは、フジテレビで、多くの番組の美術に、その名があったのだ。
その後、デザイナーとして細密な絵と文章、鋭い批評で知られるようになった。



この『少年H』は、彼が神戸市で育った小学校から中学時代のことである。
興味深いのは、洋服屋の彼の父親、そして母が相当に厳しいキリスト教徒であることで、西欧的になろうとする生活態度は特異である。
神戸ナザレン教会で、当初はまだ普通で、多くの信者がいるが、父の仕立服の客である外国人が次第に減ってゆくように、時代は戦争に向かっていく。
この辺の、神戸の外国人社会が垣間見えるのは、面白い。
そこには、ポーランドからシベリア鉄道を経て来日し、神戸から船でアフリカに行き、アフリカ大陸を北上してパレスチナに行くユダヤ人の連中もいる。
もちろん、敵国の宗教であるキリスト教徒の一家への迫害は次第にひどくなり、米国に戻った宣教師が送ってきた絵葉書の「摩天楼」を見せたことから、スパイ容疑で父は特高の調べを受ける。
こうした当時の戦時体制の異常さを子供の目から描いた作品は少なく、それは貴重。
戦争の進行で、父は消防署員に、母は、隣組の班長になり、そのことでなんとか協力を現して迫害を逃れようとする。
Hは言う、「隠れキリシタンみたいだ」
1945年3月の神戸空襲で、町は焼き尽くされる。
家が焼け落ちるとき、道端に倒れて動かない母親を揺り動かして、動いたとき、母はHに言う。
「祈っていた」 これには笑った。

戦後、空襲の中に家から持ち出して焼け焦げになったが、何とか本体が残っていたミシンを使って父は仕立てを始める。
父親役は、水谷豊、母は伊藤蘭。
昔、チャールス・ブロンソンとジル・アイアランドの共演映画が公開される度に、「また夫婦タッグマッチか」との批判があったが、これはそうはひどくない。
監督はいつもはだらだらしている降旗康男だが、これは編年体で、脚本は元劇作家の古沢良太なので、比較的普通に見られる。

日本映画専門チャンネル

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