昨日は、高円寺を東から西に動いた。別に高円寺阿波踊り大会に出たわけではない。東の中野との真ん中くらいの坐・高円寺に行きドキュメンタリー映画祭で『鋼鉄の男』を見た。
その後、総武・中央線沿いに西に歩き、円盤での岡田則夫さんの「SP講談 二〇世紀之大衆芸能」、今回は『映画俳優の歌』を見に行く。
『鋼鉄の男』は、1975年南アフリカのプレトリアで行われたボディービルの大会「ミスター・オリンピア」を中心に参加したボディビルダーたちを描くもので、主人公は当時28歳のシュワちゃん、アーノルド・シュワルッネッガーである。
そのトレーニングの様子、日常生活、試合の裏側の選手同士の心理的駆け引きなどが克明に描かれている。
大きく盛り上がった筋肉に力を入れ、力瘤を作ると血管が圧迫されて、ある感情が生まれる。シュワちゃんは、性的エクスタシーと同じだと語っているが、すごいが体には良くないのではないかと思う。
なぜなら、血管を圧迫すれば血圧が上がるはずで、心臓には良くないように思える。
だが、選手たちのトレーニング、心理戦、自己暗示等はすごいもので、皆真剣そのものである。
こうした肉体の美に憧れる精神は、欧米の人間の根源にはあるもので、ベルリン・オリンピックの記録映画『民族の祭典』でも、その冒頭にギリシャ彫刻のような美しい体の男女が現れて、太陽の火を採火し、聖火リレーを始めるシーンがある。この時、3位だった19歳の若者ルー・フェリグノも、その後『超人ハルク』などの映画俳優になったそうだ。マッチョ社会のアメリカでも、この映画が公開された1977年頃は、ボディビルはまだ日陰の存在だったが、これのヒットでオーバーグラウンドに出て、シュワちゃんのジムは全米で大人気となったとのこと。
助監督にデニス・サンダーズの名があったが、この人はエルビス・プレスリーのドキュメンタリーを作った人である。
高円寺の中央・総武線の下を西に行き、円盤での岡田則夫さんのSPイベントに行く。今回は『映画俳優の歌』の巻。
岡田さんによれば、映画スターで最初にレコード出したのは、大正時代で歌川八重子という女優だそうだが、この日の最初は松竹の清純派女優及川道子の『野に叫ぶもの』から。
以後、杉狂児・市川春代、小林重四郎、高田稔、宇留木浩・藤原釜足から田中絹代、高杉早苗らまで、トーキー以前のサイレント時代にレコードを出した人たち。
この中では、『大江戸出世小唄』の高田浩吉が圧倒的にうまく、また大ヒットしたらしい。
1930年代に日本映画もトーキーになると、主演スターがレコードを吹き込むようになり、また日活では、日活アクターズ・バンドとして島耕二、山本礼三郎、杉狂児らによるバンドもあり、映画館のアトラクションに出るというのもあった。
戦後のスターでは、中村錦之助、大川橋蔵らのもあったが、群を抜いいて上手いのは勝新太郎だった。
どの作品か不明だが1958年の『絵草紙若衆』だが、これはまだ長谷川一夫の真似をしていた時代で、すまして歌うので非常におかしい。
驚いたのは、山本富士子の『君を想えば』で、かなり上手いが、いわゆる美人声で、おすまし声で歌っている。
昔は、女優は皆美人声で台詞を言い、歌も唄ったもので、その典型が岸恵子である。
同じ美人でも有馬稲子や八千草薫らは、元が宝塚なので、正統的な発声があるので、少し違うが。
この美人声は、1970年代の日活ロマンポルノ以降、具体的には秋吉久美子や桃井かおりの演技によって日本の映画、テレビ、ついには俳優のみならず、アナウンサーの発声からもなくなってしまうものである。
山本富士子に戻ると、歌い方が非常に丁寧で情感の表現が良いのは、多分歌唱指導したであろう、古谷丈晴氏によるものだろう。
この二人は言うまでもなく結婚し、古谷は師の古賀政男から破門されることになるのだが。