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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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廣澤栄氏は・・・

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元東宝の脚本家、助監督の廣澤栄氏の長男廣澤厚氏が、廣澤栄氏の資料を小田原市図書館に寄付したそうだ。

廣澤氏は、小田原の生まれで、横浜市神奈川区の神奈川県立工業高校図案科に入る。

卒業後は大好きだった映画の道へ行こうとのことで、小田原で喫茶店をやっていた実家に、あるウエイトレスを目当てでよくやって来る小田原東宝の支配人の世話で東宝砧撮影所に入ることになる。

入社して撮影のとき、製作の担当者から

「ここに付くとトクですよ、絶対に徴兵されませんから・・・」と言われる。

なぜなら、東宝は、「軍需企業」で、真珠湾攻撃の「マニュアル映画」等を東宝第二製作所(戦後は、新東宝撮影所、現東京メディアシティ)で沢山作っていて、きわめて陸海軍のおぼえめでたい映画会社だったからだ。

石井輝男も、「撮影部にいて、軍に協力していたので、会社が徴兵延期を二三度やってくれた・・・」と書いている。

黒澤明が、徴兵されなかったのも、東宝、具体的には映画製作責任者森岩雄氏の判断だったと思う。

「黒澤を第二の山中貞雄にするな!」との考えである。

だが、廣澤栄は1944年9月に徴兵される。廣澤のような若者で、会社にまだ貢献していない者には、東宝は徴兵延期をしてくれなかったのだ。

そして、応召して千葉の九十九里海岸で対米軍上陸戦のための塹壕作りに従事する。

そして、戦後東宝に戻ると、そこは戦前と同じ映画作りが進行していた。

戦前、応召する直前に従事した映画は、防諜映画衣笠貞之助監督、轟夕起子主演の『間諜海の薔薇』だった。

戦後に復帰して付いた作品は、同じく轟夕起子主演、阿部豊監督の『歌え、太陽』と、戦意高揚映画から娯楽映画への大転換だった。

 そして、さらに驚くことに、廣澤氏は、会社に籍をおきながら、鎌倉にできた鎌倉アカデミアに入ることになる。

東宝に再度復帰後は、多くの作品の助監督に付くが、注目されるのは黒澤の『七人の侍』にもセカンド助監督として従事していることだろう。

1960年に自作シナリオで『筑豊の子どもたち』で監督昇進の話が来るが、製作条件の問題で会社と対立し、監督昇進はできず、以後シナリオライターとして、テレビ等で活躍する。

これは公開当時に見たが、監督は娯楽派の内川清一郎で、中学生の目で見ても、中途半端な気がした。

岡本喜八や仲代達矢らとのテレビの仕事が多く、秀作が多数あったがここでは書かない。

                       

映画では、1961年の堀川弘通監督の『別れて生きるときも』は、非常に良い映画であり、現在公開されているなら、、間違えなくベスト10に入る作品だったはずだ。だが、当時は映画作品量産の時代であり、特に注目されず、16位とは非常に不幸だった。

また、堀川氏も、黒澤の直弟子とのことで、水準作品を作っても、「この程度?」という風に評価されていて、過少評価されていたことも逆作用していたと思う。

因みに以前、小田原市図書館の方に聞いた話だが、長男の方は、父の大変な姿を見ていたので、映画界とは関係のない普通のサラリーマンの道を選んだとのことだ。

 

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