今年8月に、78歳で亡くなった津川雅彦を追悼して、彼が17歳の時に出た1957年の『孤独の人』が、横浜キネマ倶楽部主催で南公会堂で上映された。
主演は津川だが、映画的には小林旭であり、本当の主役は現在の天皇陛下である。
陛下が学習院高等科3年の皇太子時代のことで、原作は藤島泰輔の小説で大ベストセラーを日活が西河克己監督で映画化した。
皇太子役は公募の人だが、当時のことで正面など顔はほとんど見せず、全身は遠くからのみ見せる。それでも右翼から抗議や圧力があったようだが、そうした騒動も巧みに利用し製作の兒井英雄は映画化したようだ。
津川は、成金の息子で17歳にも関わらず、義理の叔母月丘夢路と付き合っているが性交はしていないようで、理由は
「ご学友だから」である。
武藤章生、柳瀬四郎、新井麗子、阿部徹、柳谷寛など、その後の日活でよく出てくる俳優も総出演。岡田真澄も銀座の喫茶店でワンカット出演。
小林旭は、初めは小さな役だったらしいが、演技が上手いことで西河にも買われ次第に大きな役になり、皇太子を銀座に連れ出す連中のボスになる。
旭の付き合っている女性として芦川いづみ、皇太子が好きらしい女性として稲垣美穂子。彼女はスターになった後、監督丹野雄二と結婚し、丹野の死後はテレビ映画製作会社の代表になっている。
さらに小林旭は、兒井に買われて「渡り鳥シリーズ」の主役として大スターになる。
上映後、高橋俊夫さんの講演があり、非常に面白かったが、「銀座のシーンは日活銀座でのロケーションだろう」と言われたので、
「日活銀座が作られたのはもう少し後で、しかも画面が異常に暗いので本当の銀座ロケ撮影ではないか」と質問する。
と、旭ファンの女性からコメントがあり、「先週の関内ホールでの公演で、彼が銀座での隠し撮りで大変だった」と言っていたとの発言があり、真偽がはっきりした。
館内には学習院卒の方が多く来ていて、繋がりの強さに驚かされた。
横浜南公会堂