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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『リオの情熱』

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シネマヴェーラで見た1955年の『リオの情熱』は、日本航空がブラジルへの空路を開いたことを記念した新東宝映画だと思う。

実際に、主演の安西卿子、木暮三千代、藤田進、大木実は、ブラジルに行ってリオで撮影しており、新東宝としては大作だったろう。

                   

話はよくある、長年別々にいた人間が再会し、貧乏人が富豪だと偽って手紙をやり取りしていたように、「情報の格差」で起きる喜劇で、今のようにネットやスマフォですべてがわかる時代ではありえない筋書きである。

ブラジルでコーヒー農園をやっていた藤田進は、冷害で農園を失い、今では三津田健の農場で一労働者として働く身になっている。

日本航空のスチュアデスの安西が、父親の藤田進を訪ねてリオに来た時、三津田や木暮美千代たちは、三津田と藤田の身分を入替えた芝居を考えて、みなにやらせる。

三津田の息子の大木実は、ばかばかしいとは思うが、安西の美しさに惹かれて一日を彼女と付き合う。シュラスコ・パーティーなどもあり、それなりにブラジルのことを上手く取り入れている。

勿論、最後はウソがばれるが、安西は求婚された大木と結婚してブラジルに戻って来て藤田と一緒に生活する言う。

それなりによくできた作品であるが、それ以上に興味深いのは、監督の瑞穂春海である。

彼は長野の善光寺の長男で、東大を出て松竹に入った。渋谷実などの助監督を務め、1940年に『女だけの気持』で監督デビューする。

その後、1955年に松竹を出て、東京映画、新東宝等で多数の作品を撮るがほとんど娯楽映画で、水準以上だが問題作等は一切ない。

これは何を意味しているのだろうか。私は、これは松竹にあった「韜晦趣味」で、本当は知的なのだが、そうしたことを出さないのが都会的とするという考えかたである。

日活や東宝のような、問題作、「テーマ主義は田舎者のセンスでダサい」という考え方で、松竹の城戸四郎の趣味であることは間違いない。

同様な人は、フランス詩の研究家だったそうだが、つまらない娯楽作品ばかり撮った監督原研吉もそうで、松竹大船は人材の宝庫だったともいえるだろう。

 

 

 

 


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