大映のオムニバス映画『嘘』の時、脚本の白坂依志夫は、新藤兼人から「オムニバス映画を作る会社は危ないのでギャラをきちんと取っておくように」と言われたそうだ。だが、これは独立プロの『愛すればこそ』のことで、元々ノーギャラでの参加が条件だったので、新藤が言うのは変なのだが、彼がノーギャラでシナリオを書いたことはないということなのだろうか。
さて、形式的には、「リング形式ドラマ」で、ダイヤの指輪が様々な男女の間を行くという劇になっているが、その間の繋ぎはいい加減である。
冒頭は、松岡きっこ、渚まゆみらの不良少女が、港で純粋無垢に見える少年の小倉一郎を誘惑し、無理やりセックスするが、小倉は実は、その手で遊んでいたとのこと。横浜の感じだが、ふ頭のすぐ向こうに山があり、神戸港だと分かる。
次は、外人商社マンのE・H・エリックが、秘密屋敷で奥様の長谷川裕見子とベットを共にするが、もちろん商社が用意した娼婦であること。商社の役員が遠藤辰雄であるように、これは大映京都作品で、本来東京の監督の帶盛廸彦は、わざわざ京都に行って作ったもの。
銀行員の森野福郎が、アルサロの女とホテルに言った翌日、ヤクザ的な男が支店に現れ、「俺の妻に何をした。お前の妻を一夜貸せ」と脅す。
森野は急いで自宅に戻り、男に、50万円から、70、80、100万と金をせこく増やし金での解決を懇願するが、妻の山東明子は、森野を見放して、「いいわよ」と男とホテルに行き、ベッドを共にする。
山東とは、今や自民党山東派の山東明子議員だが、こうした二流映画にも出ている。
男が言う台詞の「奥さんはきれいだが、気が強いね」の通りであり、永田町を生きているのは凄いというしかない。
最後は、一番面白くて、団地の入江洋祐と笠原玲子は新婚だが、家には入江の義父の杉狂児が同居していて、彼と笠原は出来ていて、入江が出勤すると、杉は笠原をすぐに攻める。これを遠くから望遠鏡で見ている覗き魔の受験生がいて、入江に手紙を書く。
驚いた入江は、ある日出勤したふりをして、すぐに家に戻り、二人が絡んでいる現場を見て激怒する。
入江は、笠原を自分の車に乗せ、猛スピードで運転して事故を起こして、二人は記憶喪失になり、何も分からぬ互いの幸福な顔で終わる。
帶盛廸彦が、なぜ京都で作ったのか不明だが、要は大映の専属俳優を使って1本作るという企画だったのだと思う。
意味があるとすれば、かつての日活の大スター杉狂児の最後の作品というあたりだろうか。
衛星劇場