1972年、斎藤耕一監督作品で、『旅の重さ』と共に、キネマ旬報ベストテンに入り、斎藤の名を高めた作品である。
1970年代、当時は多数あった都内の名画座に行くとよく見た作品であり、あらためて見てみると上手いと思う。
日本海岸を北上する列車で知り合った萩原健一と岸恵子の話だが、1時間半のうち、当初しゃべっているのは萩原だけで、岸はほとんど口を開かない。
岸恵子は言うまでもなく美人女優だが、台詞に難があり、私などは、あのぶりっ子声が苦手で、好きになれないのだ。
彼女を『早春』で非常に上手く使ったのは小津安二郎だが、金魚と仇名された女性は、コケティッシュだからぴったりだったのである。
1時間ほど過ぎて、初めて岸が言う台詞が「私、囚人なの」である。
ここまでドラマを持っていく技術が、脚本の石森史朗と共に斎藤のすごさで、映像と音楽の良さである。
繰り返し奏でられる宮川泰のメロディーはしつこいが、映画を持っていく。
話非常に単純で、チンピラの萩原が列車で見知った岸恵子を好きになり、付いてくるというものにすぎない。
逆に話が単純だからこそ、斎藤の映像と音楽のセンスが生かされたともいえる。
岸恵子の裁判の裁判長と、萩原を逮捕する刑事が三国連太郎なのは、予算がなくて別の俳優を使えなかったからだそうだ。
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