今年の秋にも下北沢駅近くの闇市的商店が撤去されるそうだ。
まあ、時代というべきだが、これが出てくる映画がある。豊田四郎の晩年の傑作『甘い汗』である。
脚本は水木洋子で、10代から家族のために水商売で働いてきた女性京マチ子を描くもので、一種のプロレタリア文学的映画である。
京は、銀座のバーのホステスで、同僚の一人が池内淳子で、彼女は下北沢に住んでいるらしく、闇市の中華料理屋でラーメンを食べるシーンが出てくる。
そのバックでは、商店等を解体する重機が動いていて、店主の若宮大佑らは、
「われわれも、もうやめるつもりだ」と言っている。
この映画は、1964年なので、この頃から再開発は始まっていたわけだ。
京マチ子の娘が桑野みゆきで、女子高生役である。
また、京マチ子が神戸で知り合い、惚れていた男が、佐田啓二で、彼と偶然に出会ってすぐにホテルに行く。
だが、京は、金に窮して自分の情事をテープに録音して売る内職をしていて、佐田との情事でセットするが、いきなり体操の音楽が掛かる。
娘の桑野みゆきが、使うためにテープレコーダーにセットしていたのである。
佐田は驚いて言う、「びっくりしたなあ、ムードもなにもない」
実は、佐田啓二は、ヤクザになっていて、京マチ子はパチンコ屋を巡り、山茶花究と共に騙されてしまう。そのパチンコ屋の店主としてくるのが、市原悦子である。
いつもの悪役の山茶花が善人で、いい人の佐田啓二が悪役というのが笑える。
佐田は、この役が気に入っていたようで、喜んで出たとのことだが、撮影の途中で自動車事故で死んでしまう。中盤で、田舎から出てきた春風亭柳朝一家と船橋ヘルスセンターに行き、桑野みゆきの水着姿と一緒に佐田啓二と京は再会する。だが、この佐田は写真になっているが、彼が死んでしまったので、仕方なく挿入したものだろう。
さらに、彼が住んでいるアパートに押しかけて追い出され、塩を撒かれるが、ここも佐田の姿は後だけで不自然になっているのも、彼が途中で亡くなったためだろう。
その他、この作品は当時千歳船橋にあった東京映画で撮影されたので、井の頭線や小田急線付近の情景が出てくる。