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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『愛情の決算・2』

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私は、基本的に同じ作品について、2度、3度書かないことにしているが、これは非常に面白くて、書き残したことがあるので書く。

まず、この作品の評価だが、非常に低く1956年のキネ旬の投票では誰も入れていない。

全体がメロドラマであること、さらに原作が今日出海であることが最大の問題だったと思う。

言うまでもなく、今日出海は、今東光の兄だが、弟とは違い秀才で東大出であり、若いころは新劇で、村山知義の心座にいた。

(以上のように書いたら、東志郎さんから、今日出海が弟で、今東光の方が兄とのご指摘をいただいた。今東光の弟、3人兄弟の末弟でした。文章を直すと東志郎さんのコメントもわからなくなるので、上はこのままにします)

誰の本で読んだか忘れたが、今日出海は狭量な男で嫉妬心が強くて、心座も彼のそうした性格も災いして潰れたとのことだ、本当かどうかは勿論わからないが。

その後、彼は保守派の文学者になり、戦時中は積極的に戦争協力したはずだ。

戦後は、逆にそうした経歴が災いして今日出海は文壇では主流ではなかったと思う。

映画『愛情の決算』の主人公の佐分利信の戦後社会になじめないのには、今日出海のそうした思いが反映されていると思う。

だから、今見ると「どうしてこんなにいじけているのか」と思ってしまう。

だが、1956年は、もう石原慎太郎・裕次郎の「太陽族」が出ていた時代なのだ。いつまでも戦争の思い出に浸り、床の間に銃弾で穴の開いた鉄兜を置いているのは相当に異常である。

ここでも、倉庫の外に佐分利が出ると、運河をモーターボートが走っていくのが見える。

この映画が評価されなかった大きな理由の一つは、三船敏郎と原節子がラブ・ロマンスを演じていることだと思う。

三船敏郎は、野性的なアクション俳優と思いこまれていて、こういう役柄は不適と思われていたからだ。

だが、三船敏郎は二枚目をきちんと演じているのはさすがというべきで、もともと三船は凄い二枚目なのだ。

彼が、原節子が好きで親切をするが、言葉ではなかなか言い出せず、最初にできてしまうが、結局その時は別れてしまう。

井手俊郎の脚本の運びも良いが、三船は非常に繊細に上手く演じている。

彼は、実はとても演技が繊細なのであり、同じ戦後派の役者でも、鶴田浩二のような型の演技はしないのである。

三船の世話で、原節子が最初に務める映画館の売店は、渋谷東宝だと思うが、どうだろうか。

あるいは、有楽座のような気もするが。ともかくこの映画は、戦後の東京の情景が沢山出てくるので、その意味でも大変に面白い。

ぜひ、DVD化してもらいたいものだと思う。

 


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