長谷川康夫の『つかこうへい・世伝』は、非常に面白い本で、これについては別に書くが、中でまだつかこうへいが慶応大学にいるとき、日本女子大演劇部の公演の演出をした。
その時に、早稲田の劇研の山口省二がいて、この山口の交友関係から、つかは早稲田小劇場や劇研の連中が作っていた劇団暫に接触することになった。だが、なぜ早稲田の山口が、日本女子大演劇部にいたのかは不明と長谷川は書いている。
だが、実はこれは話が逆で、日本女性大の連中が、早稲田の劇研にきていたのである。
当時、日本女子大をはじめ、東京女性大などの女性が劇研の公演には来ていて、スタッフ、キャストとして参加していた。
実際に公演当日になると、100人近くの人間が参加していて、私などは全く知らない学生がいるので、「誰だ」と聞くと、「あれは何とか大学の人間だ」と教えてくれたものだ。
私ですら、2年生の夏に、先輩のYさんと共に、戸板女子短大演劇部の夏合宿にご招待されたことがあったのだから、今考えると信じがたい。
群馬県の沼田の奥、尾瀬の手前の村だったが、交通費、宿泊費すべてあちら持ちで出かけたのである。大学時代の唯一の「青春の楽しい思い出」である。
その年の秋には、Yさんの演出で三島由紀夫の『近代能楽集』の『葵』が戸板短大の文化祭で上演された。
私の代わりに主演したのは、Yさんの高校の後輩の男だった。
先日、フィルムセンターの根岸吉太郎特集で、寺島しのぶ主演の『葵』が上映された時、これはどこかで見たことがあるなと思ったが、この時の公演だった。