「安心してください、穿いてますよ」が流行語大賞候補にまでなった芸無し芸人の時代だが、昔本当に裸になってしまう課長がいた。
最初に入った局の庶務課長で、宴会の佳境になると、裸になって「鴨緑江節」を歌うのである。
ただ、芸無し芸人と違うのは、パンツは穿いていなくて、両足の股の間にチンポを挟んで見えなくしてしまうのである。
勿論、女性職員も6人いたが、皆笑い転げていた。
「ひどいところに来たものだな」と初心な私は思ったものである。
だが、この6人の女性の内、3人が未亡人で、そのうち2人は、明らかに戦争未亡人で、残りの一人の旦那は、酔って駅から落ちて死んだのだった。
つまり、『東京物語』の原節子さんだったわけだ。
映画の中で、原節子が勤めていたのは、小企業でも商事会社らしいので、このような「芸」を披露する課長はいなかったと思うし、当時は誰もセク・ハラだとも思わなかった。
当の課長もとっくの昔に亡くなられているが、この人が二言目にいうことは、
「俺なんか、兄貴のお古だ」で、彼は戦争で亡くなった実兄の奥さんと結婚したのだ。
別に不幸にも見えなかったので、あるいは原節子のような美人だったのかもしれない。彼も、早稲田の商学部を出ていて、そう無知な人間ではなかったのだが、当時の宴会というものは、そうしたものだった。
1970年代には、巷に戦争で夫を亡くした女性は、いくらでもいたのである。