1953年公開の東宝映画、谷口千吉監督、池部良、岡田茉莉子主演の『夜の終わり』を見た。
東京新橋のバーの女給岡田は、貧しい若者池部良と恋仲で、いずれ結婚して所帯を持とうと思っていて、池部は夜の下水道清掃の仕事をやっている。
この辺の貧しい恋人たちの感じは、黒澤明の『素晴らしき日曜日』にも似ている。
下水道清掃の仕事の係長は志村喬で、浅草清川町に住んでいて、ここはラストの方で出てくる。
夜明けに仕事が終わり池部が帰ろうとするとき、ガード下で男が酔って寝ている。
起こそうとするが動かず、胸のポケットに多額の紙幣があるのに気づき、つい取ろうとすると男は起きて、格闘になり、池部は石で男を殴ってしまう。
あっけなく男は即死し、池部は紙幣を奪って逃走する。
男は、生保社員で、現場に清掃事業所職員の腕章が落ちていたことから池部がすぐに割り出され、警察は殺人犯として池部を追う。
新橋のバーに池部が来て、岡田と一緒に逃亡しようとするサスペンス、今のニュー新橋センターの場所のビルの屋上から広場を見下ろすシーンもある。
さらに彼は、中華料理屋での無銭飲食を助けられたことから、ギャングの親分清水将夫の手先に使われるが、逆に拳銃で彼も殺してしまう。
この辺のサスペンスは、脚本が菊島隆三で、とてもよくできていた面白い。
最後、池部は赤線の売春宿に逃げるが、娼婦の三益愛子と会い、そこでマラリア熱を出し、彼が南方帰りの復員兵であることがわかる。
要は、この映画は、黒澤明監督、菊島隆三脚本の『野良犬』の設定を、刑事三船敏郎ではなく、犯人の木村功の側から描いたものなのだ。
戦争による貧困と傷心の中で、偶然のことから犯罪(といっても偶然からなので、過失致死だが)に陥ってしまう同世代の男たちを描いたものなのであり、菊島隆三作品としては大変興味深い。
松山宗美術のセットもすごいが、新橋や浅草付近のロケーションも良く、瀬良良はじめ東宝の脇役が総出演で、台詞なしだが稲葉義男も見え映画出演では初期のころである。
池部良の上司の志村喬・本間文子夫妻の娘は名子役榎並啓子だった。
溝口健二の『山椒太夫』で香川京子の少女時代、成瀬巳喜男の『おかあさん』では、下の妹を演じていた少女で、劇団若草にいたが、大人になってからは映画に出ていないらしい。
フィルム・センター