『わが青春にくいなし』。
荏原中延の喫茶店・隣町喫茶で行われた居島一平の「シネ漫談」で一番受けたネタだった。
ほぼ2時間、居島は、田畑智子の自殺騒動からルコントの『タンデム』のラストを間違えて記憶していたことに至るまで、しゃべり、演じた。
この夜のテーマは、ドキュメンタリー、ノン・フィクションとは何かで、彼がドイツ映画祭で見てきた『ビクトリア』の凄さと、それがどうしたの、ということだった。
『ビクトリア』は、ベルリンに来たスペイン人女性が主人公で、酒場で働いている。
彼女はピアニスト志望でもあったので、その腕前を披露したりする。
『砂の器』の加藤剛のように、まったく弾いていないのをカメラワークでごまかすのではなく。
そして、彼女は不良一味に巻き込まれ、最後は銀行に押し入り銃撃戦も行われるのだそうだが、この2時間30分が、ワンカットというのだ。
映画全編がワンカットは、かつてヒチコックも『ロープ』で作っている。
だが、勿論フィルムで、20分弱しか続かないので、この時は、繋ぎのカットでは、壁に隠れたりして繋ぎを見せないようにしていた。
ヒチコックは、『ダイヤルMを回せ』でも部分的に使ってワンシーンのように見せていたと思う。
DVD時代になり、平気で2時間、3時間撮影できるので、こうした作品ができたのである。
だが、居島は、この作品に驚嘆しながら、
「それがどうしたの・・・」と疑問を出す。なぜなら、それは演劇では別に大したことではなく、一人で2時間演じる芝居もあるからだ。
『ビクトリア』で、彼が即座に思い出したのが『仁義なき戦い』のドキュメンタリー・タッチで、シリーズの中ではアクションがほとんどない『頂上作戦』が最高に面白いというのは私も賛成である。
特に、先日亡くなられた加藤武が演じた打本組長の小心ぶり、卑怯未練な演技が最高だった。
また、本当のドキュメンタリー原一男監督の傑作、だがそこにも演出と演技がある『ゆきゆきて、神軍』での奥崎謙三のカメラへの視線についても、居島自身が演じた。
最後、ルコント監督の芸人もの『タンデム』のラストを間違えて記憶していたことに、この日に見返して気づいたというのは、映画ファンがよくすることである。
帰りは、本当に40年ぶりくらいに、夜遅くの池上線に乗って旗の台まで行ったが、満員なのに驚いた。
昔は、いつもガラガラだったのが池上線だったからだ。東京への一極集中の現れなのだろう。