脚本家の山内久氏が亡くなられた、90歳。
言うまでもなく、活弁の第一人者だった山野一郎の息子で次男、長男は俳優の山内明、三男は映画音楽の作曲家山内正と、全員が映画一家であった。
松竹大船で脚本家としてスタートしたが、日活の川島雄三の『幕末太陽伝』をはじめ、今村昌平の『果てしなき欲望』『盗まれた欲情』、そして『豚と軍艦』などの秀作があった。
先日見た中平康監督の『学生野郎と娘たち』も彼の脚本で、田舎に戻って民衆の中で働くと宣言する中原早苗が良くて、これが『豚と軍艦』の吉村実子につながったことが分かった。
松竹の出の割には、やや日共民青的なところもあり、『若者たち』シリーズの連作には少々驚くが、浦山桐郎の『私が捨てた女』でも、最後で専務の娘の浅丘ルリ子と下層の出の小林トシエが一緒に川で洗濯しているシーンがあり、これは階級的和解への、山内や浦山らの願望と思えた。
伝え聞くところでは、三男の山内正は若くして亡くなれたが、日本共産党を死ぬまで信じていたとのことなので、それは久氏にも影響していたかもしれない。
喪主が養子の渡辺千明氏となっていたが、妻の立原りゅうは数年前に亡くなられており、二人の間には子供がいなかったということなのだろうか。
ともかく戦後の映画、テレビに多大なご貢献をされた脚本家のご冥福をお祈りしたい。