日本陸軍軍楽隊映画を2本見た。1965年の『血と砂』と1975年の『戦場に流れる歌』
軍楽隊は、消防音楽隊と並び、西洋音楽の普及にきわめて足跡があったものである。ナベサダこと、渡辺貞夫も軍楽隊の出身であり、逆に小津安二郎の音楽で有名な斎藤一郎は、自衛隊音楽隊の隊長になっている。
要は、オーケストラを別として、西洋音楽のポピュラー、クラシック、そして行進曲など、職業的に成立していたのは、そのようなものしかなかったわけだ。
この2本を見て、会社の違いがよく分かった。製作はどちらも東宝だが、『血と砂』の監督はもともと東宝の岡本喜八で、『戦場に流れる歌』は東宝だが、脚本監督は松山善三で、彼は松竹の出身だからだ。
一口に言えば、岡本作品は豪快なアクション映画で映像中心主義だが、松山作品は、エピソード主義で、個々のお話の羅列で、主人公で原作者団伊玖磨の児玉清の他は、戸山学校では隊長に加東大介、中国での隊の窮地の場面では中国人の森繁久弥、最後のフィリピンでは加山雄三と言うように次々とスターが出てくるが、ドラマ性は薄い。児玉の許嫁が藤山陽子だが、やはり美しい。中では、中国でトラックのシャフトが折れて動けなくなり、丸太小屋に逃げ込むと森繁と姑娘がいる。そこに彼女の許婚が来て、彼の村に部品を買いに行かせるのが、「走れメロス」的サスペンスなのが注目される程度。森繁の京劇的メークには笑えるが、「ここから、すぐに出ていってくれ」と言うのは、日本の中国侵略の意であり、さすがに満州にいた森繁の言葉である。
岡本喜八の『血と砂』は、少年軍楽隊が華北に派遣されて苦闘する話で、三船敏郎、佐藤允、伊藤雄之助の3人が少年たちを助けて活躍する。後半は、焼場という砦の攻防戦になり、あの手、この手の攻防が展開されて、極めて痛快である。
岡本、三船らの実際に戦争に行った者による、戦争への怒りの表現が凄い。安倍晋三君に見てもらいたい作品の一つである。新文芸坐