夏目漱石の小説『坊ちゃん』は、全部で5回映画化されているが、その最初で1935年のPCL作品。
1953.08.12 坊っちゃん 東京映画 丸山誠治 1958.06.15 坊っちゃん 松竹大船 番匠義彰 1966.08.13 坊っちゃん 松竹大船 市村泰一 1977.08.06 坊っちゃん 松竹=文学座 前田陽一監督は山本嘉次郎、主演は宇留木浩で、女優細川千賀子の兄だったが、36歳で亡くなったとのこと。宇留木浩は若いころからの山本嘉次郎の仲間の一人だったそうだ。
これを見てあらためて思ったが、『坊ちゃん』は小説として読むには楽しいが、映像にすると面白くないことだ。理由は簡単で、坊ちゃんにドラマがないからである。
せいぜい、田舎の中学生にいたずらされて怒ったりする程度、この小説の劇は、うらなり(藤原釜足)、赤シャツ(森乃鍛冶屋)とマドンナ(夏目初子)との間にあり、主人公は何もできず、最後でヤマアラシ(丸山定夫)と一緒に赤シャツを殴るだけだ。
また、この小説での坊ちゃんは、イコール漱石ではないことで、むしろ洋行帰りの気障な赤シャツにこそ、本当の漱石は近いことに注意すべきだろう。
5回の『坊ちゃん』は、松竹で南原宏冶が演じたもの以外は見ているが、東宝での池部良主演のが一番良かった記憶がある。