世に沢山出ている小津安二郎本の中では、ほとんど注目されいない本だが、非常に面白く、また実情に迫っていると思う。
小説なので、どこまで真実かは議論のあるところだろうが、従来言われてきた小津安二郎と原節子よりも、はるかに正しいと思う。
年齢的に考えて、小津と田中絹代は、3歳違いだが、原節子とは17歳も離れている。
現在よりも遙かに年齢区分の大きかった当時、小津が一回り以上も年下の原節子のことを本気で考えたとは思えない。
その頃、すでに晩年の恋人である村上茂子にも、小津は出会っているのだから。
また、この本の中の田中絹代も非常に面白い。彼女は大変な女優だったことを改めて再認識した。
この「おつちゃんはズルい」は、田中絹代が小津安二郎の他人との付き合い方を評した言葉である。
自分からは「言わず、しない」彼のことを言ったもので、大変鋭い小津への批評になっていると思う。