1954年に、野村芳太郎が監督した美空ひばり映画で、大島渚が最初に助監督として付いた映画である。
野村は、この年に、美空ひばりで『伊豆の踊子』も撮っていて、これは戦前に五所平之助が田中絹代で作って以来の2本目の『伊豆の踊子』で、この後鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、山口百恵と若手女優の作品となる。この野村芳太郎作品で注目されるのは、美空ひばりに一切歌を歌わせず、役者としてちやんと演技させていることだ。これは、五所の映画『たけくらべ』でも同様である。
話は、東京の住宅街に住む高校生のひばりの物語で、父は貨物船長の笠智衆、母は三宅邦子で、そこに笠の妹で、出戻り女の桂木洋子、さらに中学生の弟もいる普通の家庭である。
なかでは、彼らは居間でスクエアダンスを踊ったりしていて、ひばりはきわめて自然な演技を見せている。
私が見た範囲では、この野村芳太郎の2本、さらに川島雄三監督の1953年の『お嬢さん社長』(ここから、有名な「お嬢」ができた)などが、普通で自然な演技であり、美空ひばりは意外にも上手い役者でもあることがわかる。
ひばりの相手役は、同じ高校のテニス部員の田浦正巳で、彼らは大阪へ遠征試合に行き、勝利する。
テニス部の部長は英語教師の大木実で、彼は実は、桂木洋子の元夫の友人でもあるのだ。
だが、次第にこの大木と桂木が恋仲になり、いずれは結ばれるだろうと言うことになる。
ただ、大阪遠征に行ったひばりは、そこで父の笠が、中年の女性とアパートで暮らしていたことを知る。
最後は、父のもう一つの顔に驚愕していたひばりだが、母の三宅邦子が、素直に謝罪した笠智衆を許したことで、皆和解してめでたしめでたし。
現在からみれば、問題のところもあるが、できる限り洒落た意味ある映画にしているように想像できる。なにしろ音楽は、黛敏郎大先生なのだから。
黛が、ひばりの曲を書いているのは、驚きである。