前の美空ひばり公演の写真に使ったのは、1983年11月の新宿コマ公演だった。
これは、1部はミュージカル『水仙の詩』で、樋口一葉の『たけくらべ』をもとにしたものだった。
だが、これは信如の橋爪淳とは、16歳で別れてしまうので、筋が続かない。
だから、『婦系図』のようになり、新内の師匠になるが、狒狒おやじに迫られたりするなど困った話で、これが沢島なの、と思ったものだ。
だが、二部の歌は素晴らしかったが、途中で若い女性が二人、客席に入って来た。
すると、一瞬ひばりさんは、むっとしたが、すぐにこう言った。
「ご苦労様、会社で働いているとすぐに帰れないのよね、お掃除とかいろいろあるし・・・」
このとき、私は「ひばりさんは、1950年代の新東宝映画のような世界に生きているんだんなあ」と思った。
この頃、すでに普通の職場では、若手女性社員が部屋の掃除をするなどはなく、下請けの中高年の方の労働になっていたのだから。
美空ひばりさんは、1980年代でも1950年代の社会と世界に生きていたのだと思ったものだ。