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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『帰らざる波止場』と佐藤氏講演

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横浜キネマ倶楽部で、1987年7月に亡くなられた石原裕次郎追悼で、『帰らざる波止場』が上映され、佐藤利明氏の講演も行われて、大変面白かった。

              

この『帰らざる波止場』は、公開時の1966年に映画『あなたの命』と一緒に、高田馬場日活で見ていて、いい映画だと記録されているが、斎藤武市監督の『あなたの命』については、なにも記憶にない。

話は、有名ジャズピアニストの裕次郎が、海外公演から横浜に戻ってきて、恋人原良子をびっくりさせるために、黙って一日早くマンションの部屋に行くと、男(深江章紀)がベッドの上で暴行していて、裕次郎は深江と争っている内に、原を拳銃で射殺してしまい、殺人罪で3年の刑に服する。

裕次郎は、出獄後、マネージャー等を当るが、真相は不明。横浜のイタリア料理店でピアノを弾いていると、拳銃で撃たれ、その血が元大阪の大財閥の妻浅丘ルリ子に付く。

そこから、元夫の殺害の嫌疑も受けているルリ子と裕次郎が接近する。その二人を刑事の志村喬が追うという話である。

真相は、コカインの密輸を企てていた横浜の暴力団沢田(金子信雄)らによるものが分かり、最後裕次郎とルリ子は、横浜から船で旅だっていく。

横浜の実際のロケとセットが非常に上手く組み合わされていて、イタリアレストランと裕次郎が泊まる安ホテルはセットだが、ニューグランド、山下公園、伊勢佐木町なども出てくる。

佐藤さんのお話では、この脚本は山田信夫だが、もともとは松竹の監督篠田昌浩が、フランス映画の『過去を持つ愛情』を基にして構想したものが最初だという。

フランソワーズ・アルヌールが主演の1955年の『過去を持つ愛情』は、ポルトガルのファド歌手・アマリア・ロドリゲスの歌『暗いはしけ』で名を知っていたが、見たことはなかった。私がフランス映画を見ていた高校生の頃は、ヌーベルバーグ以前の映画は、ほとんど上映されていなかったからだ。

篠田の構想は、松竹なので、アクションではなく、桑野みゆきらのメロドラマだったと思うが、実現せずに山田信夫の手で、日活のムード・アクション映画になったのだ。

こうしたことは、当時はよくあり、三島由紀夫主演、増村保造監督の『からっ風野郎』は、もともとは石原裕次郎を主人公に菊島隆三が書いたが、なにかの理由でダメになった。

それが大映で、三島主演用になり、今度は増村が三島に当てはめて書き直したものだそうだ。

このように、映画や演劇のような大衆文化では、いろんな原作がさまざまな経緯で作り直されてできるものなのだ。それは、個人的営為である、文学や絵画、作曲等とは異なるところで、こうした作り変えによって作品は発展、深化するものなのだ。

神奈川公会堂

 


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