女優の松本典子が死んだ、78歳。間質性肺炎とのことだが、だいぶ前に舞台女優をやめたのは、その頃から具合が良くなかったのだろうか。
民芸の女優だったが、昔は民芸の芝居を見ていないので、その頃のは知らないが、以前戸板康二さんがレーニンを描いた芝居での女性闘士役が適役で良かったと書いていて、そうだろうと思ったことがある。
彼女を知ったのは、日活の女優としてで、多分蔵原惟繕監督の『狂熱の季節』が最初だが、これを見たのはかなり後で、他の作品だったが、すぐには思い出せない。
ただ、彼女の名前の「のりこ」は、「てんこ」と読めば、蔵原惟繕監督、石原裕次郎、浅丘ルリ子主演の「典子3分作」の『銀座の恋の物語』『何か面白いことないか』『憎いあンちくしょう』の、榊田典子になる。
これは、シナリオライターの山田信夫が、松本典子と知り合い、気にいって主人公にその名テンコを付けたと聞いたことがある。
意外な作品では、東映よりも先にヤクザ映画を日活がやった、石原裕次郎、浅丘ルリ子の『花と竜』にも出ていて、なんと芸者役で着物姿である。
舞台では、蜷川幸雄演出、清水邦夫作の『タンゴ、冬の終わりに』が良かったと思うが、この時は見て正直に言って、「随分と年をとられたな」と思ったものである。
今回の極めて早い死で考えれば、そのころから病は進行していたのだろうか。
知的で、少し冷たさも感じさせる特異な美人女優のご冥福をお祈りする。
ああいう知的な女優は今はいないのは、時代の性だろうか。