Quantcast
Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

『散歩する霊柩車』

$
0
0
これは、松竹の『吸血鬼ゴケミドロ』と並び、日本映画史上に残る相当に変な作品である。ただ、監督の佐藤肇は、東映で普通の娯楽映画も作っているので、 なぜこの映画が企画されたのかは分らない。ただ、脚本の1人が藤田伝であることがヒントのように思う(松木ひろしとの共作)。藤田は、今村昌平が劇団俳小で演出した『パラジ』を書いた人で、後の今村の映画『神々の深き欲望』でも、脚本と助監督をやっていて、今村の持つブラックユーモアが、この映画にも反映されていると思う。主人公の夫婦は、タクシー運転手の西村晃とバーの女給の春川ますみで、『赤い殺意』のコンビである。
          
冒頭、女の春川の浮気をめぐる西村との夫婦げんかがあり、西村は春川の首を絞め、次のシーンでは霊柩車が疾走していて、タイトルになる。渥美清が運転する霊柩車は、大会社のビルの前で停まり、西村は社長の曾我廼家明蝶を呼び出す。彼は、結婚式に出ているとのことで、会館の入口に霊柩車が停まり、明蝶は困って西村と車を別のところに誘導する。西村は、車の中の棺桶を開け、春川が死んで花の中に埋もれていることを見せる。そして遺書を見せて、「YKという男に騙されたので死ぬ」との文句を見せ、明蝶は困り、金を渡すことを約束する。次に、大きな病院に行き、そこの医師金子信夫にも、棺桶の中の春川を見せる。この2人は、バーの客で、春川と関係があったのだ。そして、車は団地に戻ってくると、そこでは通夜の支度が調えられている。だが、本当は春川は死んでおらず、明蝶から金を取るための西村と春川の芝居だった。だが、本当に春川が死んだと思った明蝶は、500万円を西村に渡す。さらに、明蝶は団地に来て戻るとき、そこに春川とすれ違って驚いてショック死してしまう。このように、人間の死を弄ぶがごとき作品で、日本映画では珍しい作品である。だが、本当は春川は、金子信夫と仕組んだ話であったり、春川の若いツバメの岡崎二朗との情事があったりする。最後は、翌日、団地によびに来た渥美清と共に、火葬場に行くが、渥美は総てを知っていて、別の墓場に霊柩車を持って行って、「全部知っているよ」と西村を脅す。二人の争いになり、西村は渥美に勝つ。だが、霊柩車は西村の運転で誤って大木に衝突して燃えてしまう。まことに非常識と言えば非常識で、世の良識に逆らうような映画だった。日本映画専門チャンネル

Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

Trending Articles