『新東京行進曲』

映画の初め、ヘリから安井都知事が出てきて、増田順二のインタビューに答えて言っているので、こんな偉い人を出して平気かと思うと、全く違う世界だった。
簡単に言えば、人間を上からながめる偉い人の視点ではなく、普通の人の姿を描くのだという姿勢である。

主人公は、新聞社社会部記者の高橋貞二　で、有楽町の泰明小の卒業生、同級生は大坂志郎、桂小金治、北上弥太郎、三橋達也らである。
彼らの先生は須賀不二男で、理科の実験中に、彼らが『東京行進曲』の「昔懐かし銀座の柳・・・」を歌っているのを注意するが、本心では許してあげ、「一番重要なのは自分の心に嘘を付かないことだ」と教える。
だが、ダンサーと結婚していた須賀は学校を辞め、上海に行く。

戦後、大坂は都電の運転手、小金治は、親　の坂本武の後をついで寿司屋、三橋は故あって新聞社の発送係、北上は都庁の技術屋になっている。
久しぶりの再会を小金治の店で祝って歌う歌は、『東京行進曲』である。
この返の戦前の銀座、東京を懐かしがっているのは、演劇で言えば、加藤道夫の名作『思い出を売る男』みたいなものかと思った。
加藤道夫の感じは、現代詩で言えば、『荒地派』の感じで、この辺は、戦前を単に暗い時代とみなすのとは違う歴史意識だと思う。