1955年、劇団新国劇総出演で作られた、人斬りの岡田以蔵を主人公とする作品。
以蔵を主人公とした映画では、勝新太郎主演、五社英夫監督の『人斬り』があり、ここでは薩摩の「人斬り新兵衛」を三島由紀夫が演じ、最後に切腹を見せた。
三島の切腹願望は、20代くらいからあったようで、友人でホモセクシュアルの演出家・堂本正樹と、中世の切腹の絵巻を見ながら興奮して契っていたそうだ。
さらにもう1本、熊本の細川家にも「人斬り彦斎」と言うのがいて、これも日活で映画化されている。
幕末の京都は、何人ものテロリストが横行する町だったわけだ。
監督は、サイレント時代からの時代劇のベテラン並木鏡太郎で、よくできている。
主人公が島田正吾なのだから当たり前だが、筋がいい。
足軽だったが、腕が立つので京都に連れて来られた以蔵は、佐幕派を次から次に殺すが、土佐も公武合体派になりつつあり、テロリストは余計になっている。
土佐藩の者に追われて三條河原を逃げるところから始まり、回想で事件がつづられていく。
彼は、芸者の山根壽子と恋仲になっていて、日活の『人斬り彦斎』でも、中村扇雀の彦斎の恋仲なのが山根壽子で、この人は美人女優である。
土佐藩の上司が石山健二郎で、酒に薬を入れて毒殺しようとするが、以蔵は企みを悟って飲まず、そこからまず大立ち回りになる。
さすがに島田は上手い。対する辰巳柳太郎はと言うと、これが近藤勇で、悠揚として洒脱な感じである。
山根の身請けの金に困り、以蔵は、人相絵の出廻っている土佐の唯一の友人の徳大寺伸が、密かに母と会う場所を新選組に密告してしまう。
その金を持って置屋に行くと、山根も自分の身をかたに金を作ってきている。オー・ヘンリーの『賢者の贈物』のような皮肉な話である。
最後は、新選組が池田屋に集結していた土佐藩たちの勤皇派を襲撃する大立ち回り。
この時期、日活の製作再開で、新国劇は日活に行ったと言われていたが、同時に新東宝でも時代劇を作っていたのであった。
要は、時代劇は日本映画のドル箱だったのである。
東宝も実は戦前から時代劇を作っていたが、戦後の1950年代になると、それは減少するが、その代わりに新東宝が時代劇を作っていたのであることがよく分かった。
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