1952年の山口淑子主演の映画で、監督は稲垣浩。
稲垣について、東宝の藤本真澄は、「東宝の監督の4番打者だ」と言ったというが、この作品は凡打だろう。
問題は脚本にあり、棚田五郎のシナリオにセンスがなく、また1945年夏の中国での勢力関係についての説明が不足している。
久しぶりに上海の上司佐々木孝丸のところに戻った特務工作員三国連太郎は、重慶側の組織の解明の任務を与えられる。
キャバレー・パラマウントの歌手山口淑子は、日本人孤児で中国の要人に拾われ育てられたようで、上海で有名歌手になっている。
キャバレーには日本の特高の二本柳寛、加東大介らも出入りし、南京政府への援助工作をしている。
そこで山口は北京にいたときの親友の荒木道子に再会する。彼女は、密かに重慶(国民党)側にいて、孤児院を偽装して潜伏している沢村貞子らと国民党の特殊任務に就いている。
銃撃戦で拳銃を構える荒木道子は意外だが、結構様になっていて、またきれいだ。
言うまでもなく、山口と三国が愛しあい、対立上の悲劇へと進んでゆく。
ここで山口の父親が出てきて、これが青山杉作なのには驚く。
青山杉作と言っても、もう誰も知らないだろうが、戦後は俳優教育の第一人者とされた方で、かつての俳優座養成所は実質的に青山の指導にあった。だが、この人の演技は、映画で見ているだけだが、決して上手いものではない。
そして、重慶側を代表して青山は和平工作のために南京に行くことになり、日本側は阻止しようとするが、三国の通報で青山は、無事南京に向かう。
だが、南京政府にとって青山は裏切り者であり、その娘も同じだと射殺されることになる。
三国も自分も同罪だとして山口を庇い、二人は殺されてしまう。
まるで、谷口千吉監督の映画『暁の脱走』での、池部良と山口淑子のように。
だが、ここではあまりうまくいっていない。その意味では、『暁の脱走』の黒澤明のシナリオは優れていたということになるのだろうか。
山口と三国が上海の町を散歩するシーンで、横浜の日本大通りなどが使われていた。
キャバレーで『国境の南』を演奏しとぃるが、時代が合わないと思う。『国境の南』は、戦後のヒット曲なので、戦時中の上海で係ることはあり得ないのである。
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