江東区では毎年江東シネマフェステバルをやっていて、今年は『殿様ホテル』が上映されるというので、門前仲町まで行く。
この映画の前の司葉子とのトークもあった小津安二郎の『小早川家の秋』は完売だったそうだが、こちらはほぼ満席程度で、会場に入ると下村健さんの解説が終わるところだった。
話は、元華族の河津清三郎が、自分の大邸宅を民衆のためと「家庭旅館」として、武士の商法で旅館業を始めるが、結局は・・・というもの。
1948年に華族制度がなくなったので、この時期、『安城家の舞踏会』など、華族の崩壊の悲喜劇が多く作られている。
妻は、旅館の女将なんて嫌と出て行ってしまい、執事の藤原釜足、女中頭の吉川満子らでやることになり、なんとか開業するが、来る客は問題のある連中ばかりである。
原節子が、女スリとして出てくる特別出演、この映画を作った芸研プロは、彼女の義兄熊谷久虎の会社で、実兄の会田吉男が撮影、監督は倉田文人と日活系だが、飯田兆子、井川邦子、吉川など松竹系もいる。
スタッフの助手には、津田不二夫、飯村正など、後に東映に入る連中もいて、要は寄せ集めである。
旧華族のお殿様で、「働く人に旅館を提供したい」との河津だが、ヤクザ映画でいつも悪辣な役の多い河津なので、どこで悪くなるのと思ってしまうが、最後まで善人で終わる。
この映画は、東宝の争議の後、会社も組合側もが映画製作できない時にあり、その空きスタジオを使って作られた作品だという。
だが、本当の大邸宅も使っているようで、入り口の門、玄関、さらに廊下等は、どこかの旧華族の邸宅で撮影したように見える。
入り口の感じは、昔高輪にあった高松宮邸に似ているような気がしたが、どこだろうか。終了後、下村さんにお聞きしたが不明とのこと。
このフィルムは行方不明だったが、昔フィルムレンタルの会社で日東というのがあり、その倒産後関係するところで発見されたとのこと。
そうした経緯のフィルムにしては状態は非常に良かった。ただ、出来は大したことはなく、原節子が関係した芸研プロの作品ということしか意味はないようだ。