1983年に作られたが、戸塚宏が逮捕されたためオクラになり、2011年に公開されたもの。
監督は西河克己で、製作の天尾完治はセミ・ドキュメンタリーを意図してらしいが、西河はフィクションとして作り、戸塚は伊東四朗が演じている。
話は、知多半島の戸塚ヨットスクールのことで、東京の裕福な上流の家で家庭内暴力の息子俊平がスクールに入るところから始まる。
父は東大出のサラリーマンの平田明彦、母も女子大卒の小山明子となっている。
スクールは、まるでタコ部屋みたいなものだが、訓練とヨットの操船で、情緒障害児は治療できると戸塚は信じ、事実治っている子供もいるのだ。
だが、情緒障害ではなく、知能障害等の子供も入ってきて、中の一人が急死してしまい、スクールはマスコミの袋叩きにあう。
戸塚もスクールの閉鎖も考えるが、妻香野百合子の励ましでやり直すことができ、最後俊平も治癒でき、両親の元に帰ろうとするが、彼はまたスクールに戻ってきて、ヨット選手を目指すという。
全体として大変よくできていて面白く、伊東四朗は大変な好演だと思う。
このときの母親小山明子が傑作で、
「夫や自分の父親のように東大を出て・・」というのだから、「この母親こそが息子の問題の原因だ」と西河は言っているように見える。
西河克己が、この映画を撮ったのは皮肉である。なぜなら、『狂った果実』から最後の『八月の濡れた砂』に至るまで、ヨットは日活青春映画の象徴だからである。
ヨットは、石原慎太郎・裕次郎兄弟に代表されるように、戦後の豊かな社会の青春の象徴だったからだ。それが家庭内暴力の治癒のための施設になったとは。
仄聞するところでは、西河克己の妻は、日活の企画部にいて家事が大嫌いな女性で、子供は最初からお手伝いさんに育てられたとのことだ。息子は、その後不幸な事故で亡くなられたとのこと。
西河克己は、日活から百恵・友和映画に至るまで、ほとんど明らかな自己主張したことはなく、出来の良い娯楽作品を作ってきた。
その意味で、これは彼の唯一の自己告白的作品のように思える。
以前、戸塚が刑務所からの出所後、テレビで中田宏前横浜市長と対談したのを見たことがある。およそ、戸塚宏のは迫力に比較にならず、中田宏の軽薄さのみが目立った番組だった。
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