本当は、角川で若尾文子の『死の町を逃れて』を見るつもりだったが、急いで新宿駅を出て、方向を間違えてしまい逆の西口に出て、時間が過ぎたので、阿佐ヶ谷に行く。
監督が番匠義彰なので悪くないだろうと思うと、意外に良い映画だったが、趣旨がよくわからないところがある。
主人公は元海軍軍人の笠智衆で、部下だった冷凍会社社員の渡辺文雄が、笠への「家庭教師」として石浜明を雇うところから始まる。
この設定がまず奇妙だが、戦前派の頑固おやじに世の中を教えようということらしい。渡辺のところには、仲間で笠を慕う須賀不二雄や佐竹昭夫らも来ていて、会社を設立しようとしている。
これが話の中心かと思うと、次第に筋は、笠の娘岡田茉利子の恋になる。彼女は、車のブローカー大木実に求婚され、やり手の彼に惹かれて熱海でできて、婚約する。
ところが、大木は、バーのマダム水戸光子のツバメのごとき男で、岡田がもらっていた給与も、実は水戸が払っていたことが分かり、岡田は婚約を破棄し、石浜が実家から持ってきた壺を売り飛ばして、金を水戸にたたきつける。
それを知った笠は、岡田を豪打するが、そのとき石原は言う、
「あなたに、いう資格はありますか、あなたはいつも見ているだけで何もしていないじゃないか」
笠は反省し、岡田はどうやら石浜と結ばれるらしいことが示唆されて終わる。
原作の大仏次郎は、『帰郷』に典型なように戦後の社会に違和感を持っていた。ここでは、大木に代表される金儲け主義であり、それは強く批判されている。
結局、石浜に批判されたように、笠智衆らの戦前派は、方向性を失っているということだと思う。
冒頭で勝鬨橋が出てくるので、題名の「橋」は、これかと思うと、笠が長女福田公子と細川俊夫の家を出て、東京の並木橋付近のアパートを借りていることで、並木橋の「橋」なのだった。
このころは、山手線の向こうを東横線が走るのが見えるが、現在は地下になっている線である。