衛星劇場の松竹の「蔵出し映画特集」、以前ラピュタで見たが、やはり映像の美しさ、武満徹の音楽の抒情性、そして羽仁進の演出の斬新さにはあらためて打たれる。
ただし、筋は安直だが、原作が石川達三なので、仕方のないところだが、ともかく有馬稲子がきれいである。
この作品や渋谷実の『もづ』あたりが、彼女の美しさのピークだったと思う。
脚本は清水邦夫と羽仁進になっているが、多分清水が大体の脚本を書き、現場で羽仁が即興的に演出したのだろう。
話は、3年間結婚していたカメラマンの男アイ・ジョージと別れた女優の有馬稲子が、元の新劇団に戻る。
主催者で劇作家でもあるのは原田甲子郎。
この人はどこか新劇団の人だったと思うが、三国連太郎に似た風貌で、映画にもよく出ていた他、テレビの『少年探偵団』では、怪人20面相を演じていた。
当時、まさに1960年の安保の時で、劇団も運動への参加をめぐって揺れていて、演劇に専念すべきと言うのが長老の青野平義、対して安保反対新劇人会議に参加している若者が、劇作家の福田善之ら。
有馬は、離婚したので収入がなくなり、アルバイトのドック・ショーで、学生時代の同級生大場ゆかりと再会する。
彼女は、裕福な家に嫁いでいるが、別に男を持ち、有馬はその男との手紙の仲介を何度かさせられるが、ある時に「嫌だ」と断る。
それが家中にばれたため、大場は自殺未遂を遂げてしまう。
逆に有馬は大場から「あなたの性よ、あなたがきちんと仲介役をしてくれたらこんなことにはならなかったわ」と非難されてしまう不条理。大場の実家は木場の材木屋で、これも貴重な映像である。
大場ゆかりは、KRラジオ(TBS)のアナウンサーで、久我美子に似た美人である。
有馬は、劇団員で妻を亡くした田村高広から求婚されるが断り、同時に原田からのプロポーズも一旦は断る。この二人の渋谷の夜明けのシーンも実に生々しく、長野重一のカメラが非常に美しい。
6月15日の安保反対新劇人会議の会議が終わった会議室に、「女子学生が死んだわよ」とのニュースを伝えるラーメン屋のお姉ちゃんは、左民子、後の左時枝で、左幸子の妹である。
最後、安保反対のデモで負傷した原田の病院で、有馬は原田と一緒になることを決意する。
それが「充たされた生活」とは到底思えないが、演出の実験性は、後の東陽一の『サード』や『もう頬杖はつかない』などの先行作品だと思う。
こんな実験的な作品を松竹で公開したのは凄いが、それだけまだ松竹にも余力があったということだろう。