『神々のたそがれ』は、ロシアの監督アレクセイ・ゲルマンの2013年の作品で、ソ連のSF作家ストルガツキーの小説『神様はつらい』を基にしている。
映像の感じとしては、ストルガツキーの小説でタルコフスキーの『ストーカー』に似ていて、常に雨が降り、霧がもやい、泥水に足を取られ、糞尿まみれに右往左往し、やたらに無意味な闘争が続く世界である。
笑ったのは、死んだ男の尻から糞を細い棒で子供が堀出し、それを別の男の口に入れようとした時で、場内爆笑だった。
そこは、地球外に発見された惑星で、地球から800年遅れていることが分かり、学者が派遣されて、ルネッサンスへの胎動の研究をすることになっていた。
だが、そこは反動的な世界になっていて、人々は愚かで、混乱、狂気、恐怖の支配するものになっている。
僧団という黒騎士団の蠢きなど、恐怖の映像も迫力がある。
ともかく、筋もドラマも非常に分かりにくいのだが、それを飛び越えて見せるのは、美術の凄さである。
タルコフスキーの『ストーカー』と書いたが、映像世界としては、イングマル・ベルイマンの『第七の封印』にも非常によく似ている。
『第七の封印』で騎士が、死神とチェスをする恐怖が象徴するのは、当時の米ソの冷戦下の原水爆の恐怖だが、この映画で描かれているのは、明らかに、旧ソ連の体制のことである。
それは、愚かさの下で、混乱、狂気、恐怖による体制だったわけで、それが見事に美術化されてコントラストの強い見事な映像になっている。
もし、黒澤明が見たとしたら、文句なしに絶賛したに違いない。
横浜シネマリン