来月、野田高梧の『蓼科日記』が出され、そこには小津安二郎の晩年の姿も書かれていて、当時小津が付き合っていた女性も出てくるそうだ。
実は、その女性は、池上の私の実家に一度だけ遊びに来たことがあり、私も見ている。
かなり大柄で綺麗な女性で、松竹大船撮影所でアコーディオンを弾いていて、『東京物語』には映画の中に出ているとのこと。
老夫婦が行く熱海のシーンだろうか。
なぜ家に来たかといえば、当時大学生だった兄が、彼女の個人的なアルバイト、楽器運びをやっていたからである。
以前、小津安二郎の『日記』を読んだとき、頻繁にその名前が出てくるので、随分小津と近しい人だなと思ったが、実際に付き合っていた女性だった。
そこで今週、電話で兄に聞いてみると、「当時自分は学生で子供だったので、そうした大人の関係は分からなかったが」とのこと。
映画撮影終了の打ち上げなども、彼女は必ず呼ばれていて、アルバイトの兄も同席し、横浜中華街で行われた宴会での記念写真に写っている。
その女性は、戦前に一度結婚したが、相手は戦争で戦死した戦争未亡人で、実兄家族と東京の下町に住んでいたとのこと。
あれっ、これって映画『東京物語』で原節子が演じた笠智衆・東山千栄子夫妻の次男で戦死し、未亡人となっている女性のモデルではないだろうか。
小津安二郎の『秋日和』は、野田高梧が娘を嫁がせた実話が基であり、原節子の戦争未亡人にも、彼女の面影が影響しているのではないかと思った。
野田高梧の本の刊行が待ち遠しい。