永井荷風の名作だが、豊田四郎監督のものではなく、新藤兼人脚本・監督のもので、1992年、東宝60周年、近代映画協会40周年、日本ATG30周年記念で制作されたもの。
ただ、前半は永井荷風の『断腸亭日乗』の記述で、バスで玉ノ井に行って、お雪と会うところから、『濹東綺譚』になる。この辺は、豊田四郎監督作品とは異なっていて、私は豊田四郎が好きなのだが、正直に言って、この映画は、山本富士子と芥川比呂志で、きれいごとになっていて、全く感心できなかった。
対して、ここの津川雅彦の永井荷風は、大作家だが、別の見方で見ればただのスケベ親父であることをきちんと描いているのは良い。
スケベ心、性欲を肯定的に描くことは、1960年代のメジャー映画会社には無理だったわけで、その点は時代の進歩である。
荷風は、当初は銀座のカフェーの女と遊んでいたが、金目当ての女の宮崎美子に呆れて、バスの乗って玉ノ井に行き、最後は理想の女のお雪の墨田ゆきに会う。
そこは、非公然の売春街だが、警察とも通じていることなども描かれている。
お雪の店の女将は、乙羽信子で、その息子は、大学生だが、学徒動員で出征していき、すぐに死んでしまう。
その出征の前日、お雪は、息子に体を上げ、最後の悦楽とさせるのは、乙羽の願いでもあった。
荷風は、お雪を身請けする約束を一旦はするが、結局玉ノ井に来ない内に、1945年3月の東京大空襲になってしまう。
戦後、生き延びた乙羽と墨田ゆきは、また売春をしていて、ある日、墨田は、新聞で永井荷風が文化勲章を受章した記事を見つける。
だが、二人は、荷風を、エロ写真師だと思っている。
そして、1959年、荷風は、自宅で一人死ぬ。79歳で、胃潰瘍だった。
市川市の大黒屋で、かつ丼を食べる姿もある。
ただ、この津川が、戦後よぼよぼの荷風を演じているのはおかしいと思う。
永井荷風は、180センチ近い大男で、結構頑強だったのだ。