大学の劇団の4年上の方にSさんと言う人がいる。
この方は、早稲田学院高校でも演劇部だったそうで、ある日クラブの部長のKさんという方が稽古を見に来られるというので、大騒ぎになったそうだ。
部長の先生が、クラブの稽古を見るに来ることなんてなかったからだ。
そして、終わった後、K先生はこう言われたそうだ。
「君たち、プロの役者に芝居を見てもらった方がいいなあ、例えば民芸のような・・・」
生徒は、この人は、なにを言っているのだと思った。
だが、先生は、文学部のドイツ哲学の樫山欣四郎先生で、娘はすぐに樫山文枝として、女優デビューし 、NHKの朝のドラマの主演にもなったので、皆驚いたそうだ。
樫山文枝は、吉永小百合と共通したところがあり、まったく不潔さがなく、それゆえに多くの年配の女性にも好まれることだ。それが、女優として良いかどうかは、別のことだが。
この二人の女優には、さらに共通したことがあり、それは大変な優等生であり、お勉強が非常にできたことだ。
吉永小百合に至っては、都立駒場高校から私立の精華高校に変わったが、そこも忙しくて出られず中退してしまった。その後、大検を受けることにしたが、それもうまく行かず、早稲田の特別な計らいの「高校卒業認定試験」に合格し、本番の入試でも合格で早稲田大学文学部に入学し、優秀な成績で4年で卒業したのだ。
6年もかかった私の及びもつかぬところである。
さて、この劇は、アメリカの劇作家ニール・サイモンの2003年の発表で、遺作だそうだ。
私が、彼の名を知ったのは、テレビで、日本テレビで『おかしな二人』が放映されていて、「実に作劇術が上手いなあ」と思ったものだ。
場所は、ニューヨーク州のイーストハンプトンの海辺の別荘に、元流行昨夏のローズ(樫山文枝)がいて、クリスマス向けの新作に取り掛かっているが、上手くできない。
元夫のウォールシュ(篠田三郎)を5年前に心臓病で亡くして以来不振の状況。
以前からの豪奢な生活が改めれず、家計は破産寸前なことを助手のアーリーン(桜井明美)に告げられているが生活を直すことができない。
ローズの目には、毎日死んだはずのウォールシュが現れ、いろいろと気遣うが、なかなか筆は進まない。
その時、アーリーンの提案で、若い駆け出しの作家クランシー(神敏将)に連絡して、やってくる。
若い彼は無作法で何も知らない男だが、別荘の雰囲気が激変する。
そして、最後の30ページで止まっている原稿を彼にローズは渡す。
数週間後、彼が持ってきたのは、残りの原稿の書き足しではなかった。
それは、ローズとウォールシュとの出会い、成り立ち等を感動的に書いた「暴露もの」のような実録小説で、アーリーンは、ローズは、絶対に反対するという。
だが、それを読んだローズは出版に賛成し、実は本当の娘だったが、小説に忙しくて面倒をまったく見てこなかったアーリーンとも和解する。
だが、その時、ローズも心臓発作で死ぬ。
まことに上手くできたハッピーエンドで、「ニール・サイモンも、こうして周囲の家族と和解して死にたかったのだなあ」と思う。
彼のような大作家でも、そうなのかと思う。
演出の田中麻佐子は、劇団民芸の人ではないようで、少々遠慮しているようにも見えたが、できは悪くない。
ただ、音楽がきわめて凡庸で、ここはロジャー・ニコルスのような洒落た音楽が必要だったと思う。
紀伊国屋サザン・シアター