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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『由起子』

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1955年の今井正監督作品、製作の伊藤武郎が金に困って作ったメロドラマ。

原作は菊田一夫で、『君の名は』のようなヒットを狙ったものらしいが、メロドラマとしては中途半端。製作は、もう一人映画『ひろしま』の小林聖がいるので、『ひろしま』は儲かったのだろう。

冒頭、奥入瀬川に入っていく女性・津島恵子がセーラー服姿で、ずんずんと川の中を進んでいき、もう少しで死ぬ、というときに、松葉杖が飛んできて、自殺は阻止される。

杖の主は、宇野重吉で、足が不自由だが、彼女を救って旅館で、彼女の身の上話を聞く。

津島は、不幸の塊のような女性で、死んだ叔父の家に居候していて、義理の叔母の村瀬幸子に虐められている。

松竹得意の継子苛めであるが、一応女学校に通っている。そこは、上流の女学校で、津島は、友達で学校を辞めた子が、「相談したいことがある」というので、彼女がいる浅草に行く。

浅草に行くこと自体が問題なので、一緒に先生の原保美が着いていってくれて、津島は浅草に行く。

友人の関千恵子は、カジノフォーリーの踊子になっていて、木村功、小沢栄太郎とトラブルになっている。

もちろん、善玉は演出助手の木村で、悪玉は浅草の演劇界の古ボスの小沢である。

そして、この辺が少しあいまいなのだが、津島と木村は恋仲になるが、木村は故郷の因島に帰ってしまう。

津島は、浅草のようないかがわしいところに出入りしたとのことで、女学校を中退させられてしまう。

村瀬から、母親のことを聞かされ、津島は営林署のあった秋田に行き、実母のことをいろんな人に聞く。

ここで、戸田春子や島田屯などのいつもの独立プロの俳優が出てくる。

最後に、彼女は「父なし子」で、父親は刑務所の受刑囚だったことが分かる。

そして、奥入瀬で自殺しようとしたのだ。

一晩で、彼女の身の上話を聞いた画家の宇野重吉だが、彼は30代で小児まひになり、妻は若い弟子といなくなってしまったとのこと。

これは、1932年のことで、その3年後、宇野と津島は、二人で因島に来ている。

この関係が不明で、今なら夫婦だろうが、そうではなく、宇野の秘書みたいなもので、

「あの2・26事件の時も、この人に助けられた」そうだ。

もちろん、津島は、木村を探しに来たのであり、村で住所を聞くと、「水上生活だ」と言われる。

船に行くと、父親の加藤嘉がいて、木村は、

「明日結婚するために、町にいっている」と言われる。

彼は、木村を、同じ水上生活者の野添ひとみと結婚させたいので、嘘を言ったのだ。

夜、木村と津島は再会し、二人は、父の嘘を知る。

互いに今も好きだが、津島は、木村に会ったことで満足し、東京に戻るという。

また、木村も、代用教員として、この水上生活者のために働きたいといい、二人は別れて終わり。

ここにあるのは、自分たちの愛よりも、より不幸な人(水上生活者)、身体障碍者(宇野重吉)を助けるべきだという、今井正らの考え方である。

1955年は、まだそういう時代だったのだ。


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