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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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鈴木喜一さんと相川藤兵衛さん 4

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相川藤兵衛さんが議長になり、私は非常に気が楽になった。それは、相川さんは、非常に温厚で気難しいところがまったくなかったからだ。

鈴木先生は、横山先生との関係にあるように人の好みが結構あり、だめと思い込んだら、ずつとダメだったからだ。横浜市役所では、人事異動の前に、内示があった。

ある時の内示で、市会事務局の課長の内示を受けた人がいた。よほどうれしかったのだろう、その方は、鈴木議長に「今度、市会事務局に行きますのでよろしく」と電話した。

すると議長は、「絶対にあんな奴はだめ」と人事部長に電話して、熱海での県議長会に行ってしまった。

びっくりして、助役が飛んできた。

「鈴木議長は、どこに行ったんですか」

熱海の県下議長会のホテルを教えた。もちろん、助役は熱海に行き、その課長の内示は取り消された。

翌週、鈴木議長に聞いてみた。

「あいつは、行政視察のとき、預り金をごまかしていたんだ。そんな奴を市会の課長にできるか!」

預り金と言うのは、当時他都市への行政視察が各議員に3回くらいあり、事務局職員が随行していくときは、予め出張旅費を職員が預かり、経費に充てた後、余った分を返すことになっていた。その際、随行者チップといって、議員一人当たり1000円くらいを貰う慣行になっていた。

1000円づつで、随行が2人だと全10人の一団でも一人当たり5000円くらいのチップになる。まあ、職員への慰労手当だった。それを適当にごまかしていたというのだ、その問題の課長は。

よく考えれば、たかだか数千円のものだと思うが、やはり苦労人の鈴木先生は、許せなかったのだと思う。

このように鈴木先生は、意外にも細かいところもあり、気を使う人でもあったのだ。

その点、相川藤兵衛さんは、やはりご大家の当主なので、万事鷹揚で、うるさいことは一切言われなかった。

ただ、醬油の味についてはうるさかった。相川家は、元は地元で味噌・醤油を作っていて、議長の頃も製造はやっていなかったようだが、販売はやっていて、家には担当の番頭さんのような方がおられた。

だから、市会事務局の議長室には、給湯室があり、普段は来客にお茶を出すのだが、昼食時は、お弁当と共に、醤油も出したことがあった。

これの味がおきに召さず、「こんなの醤油じゃないよ」と言われてしまった。さすが味噌・醬油屋と思ったものだ。

相川先生の奥さんは、イセさんと言い、横浜の港北の飯田家から来た方で、大変しっかりとした女性だった。飯田家も港北の大地主で、市会議員も出している。

昔の素封家の結婚は、こうしたものだったんだなあと思った。

相川さんの邸宅は大変に立派なもので、六浦駅からの道路に面したところに門と玄関があるのだが、普段は一切使わず、私も正月と、結婚式の仲人を頼みに行ったときしか玄関から入ったことはない。

普段は、裏の台所のようなところを皆で入りしていた。本当に、昔の木造の旧家の作りだった。

皇室の年中行事に園遊会があり、年2回春と秋に行われ、指定市の市長と議長は、どちらかに招待されることになっている。

                  

ある年の春だったと思うが、その招待が来た。

そこで、その日まず、御前11時頃にご夫妻を迎えに行き、ホテルニューオオタニで、ご夫妻と運転手、そして私の4人で食事した。園遊会は、もちろん軽食は出るのだが、一応食事したのだ。

そして、皇居のどこにに送った。

この間、朝から相川さんはまったく口を利かなかったのだ。こちらが話しかけても一言も言わなかった。天皇に会うので、緊張されているのだなあと思ったものだ。

帰りは、下賜された煙草をご本人は吸わないので、運転手に上げて、非常にご機嫌になった。

やはり、昔の人だなあと思った。

前に書いたこともあるが、ある年の年末、私は相川議長から、お年玉をもらったことがある。

受付にいた女性ももらい、「こんなもの貰っていいのでしょうか」と聞かれたが、

「いいよ、貰っておけば」と二人でお礼を言いにいった。

なにしろお大尽なんだなあと思ったものだ。

昔、大スターの長谷川一夫は、スタジオでの撮影のとき、ワンシーンが終わりスタジオを出る時、スタッフの助手らにお小遣いを配っていたそうで、共演の女優山根寿子はびっくりしたとのことだ。

まあ、こういうのは、芝居の座長の座員への手当のやり方だったように思える。

そう考えると、私は、「相川家の使用人」のように思われていたのかと思う。

あの立派な相川家の邸宅も、相川藤兵衛さんがなくなり、息子の相川光正さんも亡くなって完全に壊されているようだ。

俗に、「相続税で大地主の資産は、三代でなくなる」と言われるが、そうなのだろうか。

 

 

 


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