フリーの映像ディレクターの木村由宇子(瀧内公美)は、学校での「イジメで自殺した子の事件」を扱って真実に迫ろうとしている。テレビ局は、真実などどどうでも良く、型どおりの番組ができれば良いと思っているのだが。
彼女は、父(光石研)がやっている塾の講師もやっているが、そこは進学塾というより、落ちこぼれのための塾で、少年少女の居場所化している。
私の大学時代の後輩にKという男がいて、雑な男だったが、人は悪くない奴だった。劇団のOB会で会ったとき、地元で塾をやっていると聞き、今後少子化で大変だろうと聞くと、
「世の中、できの良い人間ばかりじゃないんです、ともかく高校だけは出てくれという親はいくらでもいるんです、我々が相手にしているのは、そういう連中です」と答えた。
脚本・監督の春本雄二郎とは、2016年に新人監督映画祭で会ったことがある。『かぞくへ』という映画で、私は良いと思った。だが、大高正大を委員長とする審査会では、
「この人は、松竹京都で長く助監督をしていて、上手いけど、新人の新しさ、斬新さはないのでは」との評価だった。
だがここでは、先日見た羽仁進監督の『ブワナ・トシの歌』のような、きわめて自然でリアルな演技で全編を押していて、大変に新鮮だった。
そして、ある日、一人の女のメイが倒れ、妊娠していることがわかり、さらにその相手が父だったことに愕然とする。
メイは、父親と二人で、この父親は、元は芸術家を目指していたらしいフリーターの駄目男で、駅前でテッシュ配りをしているのが笑える。メイは、塾の学費と引き換えに父親と性交したのだ。
ここにあるのは、小泉純一郎・竹中平蔵以後の格差社会の実像で、地方社会の姿である。高崎周辺という北関東というロケもリアリティがある。
最後、メイは父親のみならず他の少年とも性交して小遣いをかせぐ嘘つきであり、「イジメ事件」も真実は異なることが証される。
メイは、道をふらふらと歩いて事故に遭い、流産してしまい、駄目男の父も初めて妊娠を知る。
この作品がよいのは、結局すべてが元に戻ってしまい、最初と同じところだ。まるで成瀬巳喜男の映画のように。
由宇子の滝内公美が、少々かっこよすぎるが。
横浜シネマリン