1962年に製作された大映作品、監督・脚本は木村恵吾。木村は、谷崎潤一郎の『痴人の愛』を最初に映画化するなど、エロチックな映画で有名だが、よく見ると非常に演出とキャスティングの上手い人であることが分かる。
原作は佐野洋で、緻密に構成されている。
自動車会社の課長船越英二は、貞淑な妻淡島千景と平穏な生活を送っていたが、相当に経済に厳しく、自宅の二階を女子大生の渋沢詩子に貸している。電気の消し忘れなどにも異常に煩い男を船越が好演する。
渋沢の前は、淡島の従姉妹の三木裕子が薬剤師になるために二階に住んでいたが、彼女の大学卒業の日に、船越はモノにしてしまっていて、その関係は密かに続いている。
三木は、港区の薬局で働いていて、店は「彼女が来てから3割も売り上げが増えた」と喜んでいる。
船越と三木は、東京の古い待合での逢瀬を続いていたが、いつも帰りの時間を気にしている船越の態度に三木は不満を抱いている。
そんなとき、淡島はクラス会の旅行で熱海に1泊旅行に行き、「これはチャンス」と三木は船越と熱い夜を過ごすことができる。
そして、淡島には、三木も船越も、毒入りの歯みがきとチョコレートを渡しておいたのである。
月曜日に船越が会社に出勤すると警察から電話があり、「奥さんが熱海で自殺した」とのことで、驚愕の名演技を見せる船越。
東京駅で三木と落合い、二人は熱海の旅館に行く。
旅館の主人の松村達郎はひどく苦い表情で、二人を迎え、部屋に行くと菅井一郎の刑事がいて、
「奥さんの自殺は間違えない。妊娠していて遺書もあったんですから」とのこと。
つまり、淡島は男と二人で来て、心中したので、男の妻山岡久乃は怒り狂って部屋を去っていたのだ。
喜び合う船越と三木、別の部屋を取ってもらい一夜を過ごした翌日。
朝、船越は、三木が仕組んだ毒入り歯磨きで、三木は船越の毒入りチョコレートでそれぞれ死んでしまう。
原作の佐野洋は、日本共産党支持者で有名だったが、やはり犯罪者は罰せられるべきとの「勧善懲悪」思想だったわけだ。
この辺は、同じ共産党支持者の松本清張とは少し違うところだろう。
清張にあっては、下層の者は、上の者を罰してもよいとの思想があったと思うが。