『肉体の門』を見ようとラピュタに行くが、満席。10分前に一杯になったとのことで、今度は横浜からは湘南新宿ラインにしようと思う。
渋谷行きのバスに乗り、東横百貨店前で降りてシネマ・ヴェーラへ。
安部徹、小沢栄太郎、河津清三郎の3悪役特集で、安部の善人役の1947年の川島雄三の『深夜の市長』
いきなり昼食中の銀行員が射殺されて強盗事件が起き、社会主義者の犯行とされる。
中国の戦場で、兄が犯人の一人と知った安部は、日本に戻って、それが冤罪であることを明らかにしてゆく。
そのカギを握るのは、深夜の市長と呼ばれ、社会主義者から転向してギャングになった月形龍之介である。
こう書いて、これは1932年に大森で起きた共産党ギャング事件のことではないかと思えてきた。
共産党ギャング事件については、ウキペディアにあるので見てほしい。
共産党ギャング事件は、当時大変な影響を起こした事件で、明治時代の「火付け、強盗、自由党」と同様に、政府側の都合のよい宣伝になった。
その反響の大きさは、1972年の浅間山荘事件とリンチ殺人の連合赤軍事件の起こしたものと同様のものがあった。
この事件では大塚有章らが逮捕されたが、現在では、これは本当は特高のスパイ村松の起こした謀略事件だったとされている。
1933年の小津安二郎の『非常線の女』では、田中絹代は昼は英文タイピストだが、夜はギャング岡譲二の情婦で、最後は現金強奪事件を起こして逃亡する。だが最後に、田中絹代は岡譲二に銃を向けて負傷させ、「最初からやり直そうよ」という。
これは、映画『生まれてはみたけれど』以降、当時の日本社会への批判意識を持っていた小津の、日本共産党らへの「もう一度最初からやり直したら」というメッセージだと私は思う。
その証拠に、この作品の後、小津は「喜八もの」等へ移行し、社会批判をやめてしまうのだから。
監督の川島雄三は、明治大学時代は映画研究会にいて、そこには戦後は衆議院議員、横浜市長、日本社会党委員長になる飛鳥田一雄もいたので、こうした事件に無関心だったとは思えない。
川島というと、戯作派のように見られているが、結構複雑な中身があるなと思った1本だった。
シネマヴェーラ渋谷