松本清張原作で、日活で『危険な女』として渡辺美佐子主演で1960年に作られ、監督は若杉光夫、小説家は芦田伸介、渡辺の夫役は下元勉で、実質的に劇団民芸映画だった。
これは、55分しかなく、丁度よい長さだったのだろう、3本立ての1本としてよく上映されていたので、私も何度か見たことがある。
原作が面白いのは、女が「地方紙を読みたい」として言ってくる始まりである。
当時は新聞小説全盛時代だが、地方の新聞には1紙で原稿を載せるだけの予算がなく、地方紙同士で連載させたりすケースが結構あった。
地方の何紙かが共同し、あるいは共同通信の手で地方配信される新聞小説があり、川端康成の『東京の人』もそうだった。
そうした時代を踏まえているのが、この原作である。
今回は、時代が現在になっていて、たしか原作や映画『危険な女』では、夫が病弱で生活の邪魔になり、妻の渡辺が殺してしまうものだったと記憶している。
今回は、国会議員の秘書北村有起哉の妻の広末涼子が、スーパーで万引き犯に仕立てて脅迫する男女を毒殺するという風に変えられている。
ワイドショーでは万引きの実態がよく放送されるので、それがヒントなのかも知れないが、やや無理のある設定である。
広末涼子は、あの脱力芝居が私は大嫌いで、なぜ彼女をよく起用するのか、製作者の意図が理解できない。
それに、小説家の田村正和が、広末に輪をかけた「引きの演技専門」なので、ドラマは一向に盛り上がらない。
そして、最後の主人公二人による長々とした説明、思わず「橋田寿賀子アワー」かと思った。
田村正和は、以前から受けの演技だけで、これで人気なのはルックスの性かと思っていたが、今度は年の性か、台詞が極めて不明瞭になっていてまことに聞くに堪えない。
そろそろご引退の時期ではないだろうか。
日本映画史上最高の男優である、阪妻の息子としては、少々恥ずかしいのではないかと思った。
眼鏡を掛けると、五木寛之そっくりに見えるのは、製作者たちの皮肉なのだろうか。